雨宿り

それは一瞬の出来事だった。

突然背後から口を塞がれたと思うと、

既に私の体はその男の懐にあり、

身動きはできない。

男の心臓の音が聞こえる。

この男も生きているのだなと思った。

湿気の多い空気が、少し息苦しかった。

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雨だ。

先ほどまでの青空はどこかに消えて、ぽつりぽつりと、肌に水滴を感じた刹那、空からの水量は一気に増し、地面に雨粒が跳ね返るほどの強い雨になった。

傘もなく、近くの軒下に駆け込む。きっと少し時間が経てば止むだろう。バッグからハンカチを取り出して体についた雨水を拭き取っていた時に、それは起こった。

私の口は塞がれ、男の腕の中で身動きも取れなかったが、何故か私は冷静だった。私を拘束する男の腕の力は強く、触れている部分が痛い。雨は相変わらずの土砂降りだ。おそらく、口に布のようなものを入れられた今の私が叫んだところで、私の声はこの雨音の中に取り込まれてしまうだろう。ここは流れに身を任せるか。

 

男の呼吸の乱れを背中で感じる。

 

男は興奮しているようだった。ただしそれは、性的興奮というよりはむしろ、自分が作り出してしまったこの状況への恐怖、不安、焦り、そんなようなものを感じた。

 

「…なぜ、抵抗しない…」

 

少し上ずっていて、震えた声。

馬鹿な男だ。こちらは口を塞がれているのだから応えようがないだろうに。

私は目で語り、視線をすぐに外した。

ここで私が抵抗したところで、男女の力の差ではこちらが不利であるし、

何か少しでも反応してしまえばこの男を喜ばすことになるだろう。

 

私は無になる。

私の体や心に無遠慮な豪雨が来たとしても、

静かにそれが過ぎ去るのを待つのだ。

どんな雨も、いつか止むのだからー

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